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大阪地方裁判所 昭和27年(行)19号 判決

原告 株式会社大鋼機械製作所

代表者 寺浦留三郎

代理人 南利三

〈外一名〉

被告 大阪市西淀川区農業委員会

代表者 田中光三郎

代理人 浜田美智夫

〈外一名〉

主文

一、被告が原告に対し昭和二七年二月九日別紙物件表記載の土地につき定めた買収計画を取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

理由

被告委員会が自作法にもとづき原告所有の本件全土地について、昭和二七年二月九日農地買収計画を定めてその旨の公告をし、一〇日間買収計画書を縦覧に供し、原告から同月一九日異議の申立をしたのに対して、同月二五日異議の申立を却下する決定をし、原告がさらに同年三月五日大阪府農業委員会に訴願をし、同委員会が同月二五日一部の土地を買収より除外し残余の土地である本件土地については訴願を棄却する裁決をしたことは、いずれも当事者間に争がない。

そこで本件土地についての右買収計画の適否を検討しよう。

まず本件土地が自作法にいわゆる農地であるか否かにつき考えるに、原告は、本件土地はその位置環境が工場用地に適し、原告において工場の敷地に供する目的で買受けたものであり、当時戦争のため建築認可申請までしたが工場を建設するに至らなかつたのであり、その後地上げをして宅地として何時でも使用できる状態に整備した土地である。また右土地のうち一一四番地の一の土地は、昭和一七年八月大阪府知事より農地調整法所定の農地に該当せずまた臨時農地等管理令、臨時農地価格統制令の適用を受けないものとして払下げを受けたものであるから、自作法施行後も法律上非農地たる効力を有するものであると主張する。しかし自作法にいわゆる農地であるか否かは、買収計画当時における該土地の客観的事実状態に基いて判定さるべきものであるから、所有者の主観的目的や原告主張の如き知事の払下げがあつた事実により、現実に農地であるものが非農地になるものではない。そして検証の結果によれば本件土地はその一帯に亘つて麦や野菜が栽培されており、本件買収計画当時もこれとほぼ同様な状況で耕作の目的に供されていたものであることは本件口頭弁論の全趣旨に徴し容易に窺えるところであるから、自作法にいわゆる農地であつたこと明らかである。

次に、本件土地について、自作法第五条第五号の指定をすべき土地であるか否かの点を考えてみる。

成立に争のない甲第一ないし第三号証、第四号証の一、二、第七号証及び検証の結果に本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、本件土地は、神崎川と左門殿川との分岐点にあたる三角洲において、神崎川の西側堤防に沿いほぼ正方形をなす一団の土地であつて、この土地の西方には一部畑あるいは空地はあるが、大部分は本件土地との境界線に沿い、或いは道路を距てて住宅が軒を連ね、この部分のさらに西側を流れる左門殿川及び本件土地の東側神崎川の各対岸は工場地帯ないし住宅地帯であつて、本件土地の南側は工場であり、北側の隣接地は買収から除外されて現在大阪生コンクリート株式会社の工場が建設されており、本件土地も原告が一一四番地の一は昭和一七年八月、一一四番地及び一一九番地はその翌年頃、いずれも工場の敷地に供するためにこれを買受け保有してきたものであることを認めることができる。以上の認定事実から考えると、本件土地は工場及び住宅地帯化した地域の中に本件土地のみが取りのこされた形で存在する農地であつて、近くその使用目的を変更することを相当とする農地であると認めるのが相当である。

そうすれば右土地について、被告委員会は自作法第五条第五号により大阪府農業委員会の承認を得て買収除外の指定をすべきであり、右指定をせずして為した本件買収計画は、この点において違法であり、取消をまぬがれない。

仍つて本件買収計画の取消を求める原告の請求は、その余の争点につき判断するまでもなく正当であるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 山下朝一 裁判官 鈴木敏夫 萩原寿雄)

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